(「髙仁会・音楽療法の歩み」の前半記事はこちら)
つぎに実際の音楽療法のことについて少しお話ししましょう。
音楽には様々な働きがあります。脳の運動中枢・感情中枢・自律神経系に複合的に影響を与えます。そして長期記憶、すなわち昔の記憶を呼び覚ます働きがあります。好きな懐かしい曲が元気だった頃の感覚をよみがえらせるのはその典型です。
特に歌うことは心にも身体にも良い影響を与えます。
まず身体への影響は、歌うことで呼吸する力が強くなり、姿勢が改善され、口や舌の筋肉が強くなります。音程を正しく取ろうとしたり、魅力的に歌おうとするためには、まず聴く力が求められます。音や声を聴き分ける耳の能力が上がります。一定のテンポを維持したり、細かい変化を感じとるリズム感も改善します。それはさまざまな日常動作や活動能力に寄与します。
心への影響は語らずとも皆さんよくお分かりとは思いますが、解析できなくては音楽療法とは言えないので、解き明かしていきましょう。
まず第一に、気分の入れ替えの効果です。締め切った部屋の窓をいっぱいに開けて空気を入れ替えるように、滞った気分が曲によって新しい気分を呼び込みます。
誰かと斉唱で歌い声と響きが合った瞬間の美的満足感や成功体験と、一人で歌うより響きで支え合って共に歌うことで得られる他者との共同作業の喜びが味わえます。
上達する過程で自己肯定感が上がり、他者の賛美も得られやすく、音楽を介して互いにこころの垣根が低くなります。
選ぶ曲の歌詞のテーマに無意識の心の問題と向き合う場ができます。共に歌う仲間の声に守られて、折り合いをつける無意識の作業となります。論理性より感性的な折り合いこそが歌の本質です。
歌は一人一人好みがまるで異なり、共感はできなくても他者理解の大きな材料になります。
このように分析すれば言葉にはできますが、言葉にするより音楽することそのものに意味があるのです。
永田先生は『調息調心』こそそこに真価があるとおっしゃっていました。
仲間と共に自ら歌うこと、奏でる事こそ、
『心のホメオスターシス恒常性』そのものだと考えています。
まだまだ私も頑張ります。髙仁会の音楽療法がスタッフご協力のもとに、ますます発展していくことを願ってやみません。ご清聴ありがとうございました。