Ⅰ.統合失調症 第3回 統合失調症の治療

目次

統合失調症は、数ある精神疾患のなかでもとりわけ深刻な病と思われています。幻覚、妄想などの統合失調症ならではの特異な症状は、一度罹患すれば一生治らないと言われていたほどです。

しかし、近年の医療技術の進展にともない、優れた治療薬が開発された結果、今では病気と上手に付き合いながら生活している人も少なくありません。患者さんを悩ませてきた 症状の多くを薬によって緩和することが可能となり、統合失調症を患ったとしても絶望する必要はない時代となったのです。

症状が改善されると、次にめざすのが社会復帰です。病気によって諦めなければならな かった就学や就労など、自分の生活を取り戻すという目標は、患者さんや家族のモチベーションにもなります。しかし、この「症状の改善」と「社会復帰」の間には、依然として大きなハードルが立ちはだかっています。

治療がうまくいき、いざ就学・就労を試みるものの、失敗を繰り返して自信を喪失してしまう。病気であることを知らない周囲の人たちとのコミュニケーションがうまくいかず に、トラブルメーカー扱いされてしまう……。統合失調症を患っていなくても、社会に出 ていくということは困難がついてまわるものですが、病気療養で社会とのつながりにブランクのある人であればなおのこと、うまく立ちまわることが難しいことは容易に想像がつくことでしょう。

では、統合失調症の患者さんの社会復帰は不可能なのでしょうか。病を抱えながらも、学校で勉強したり、仕事を行うことを望むのは無理なことなのでしょうか。

決してそのようなことはありません。統合失調症を患っているからといって、社会生活を諦める必要は全くないのです。

統合失調症の治療法は一昔前に比べて格段の進歩を遂げており、その選択肢も広がって います。医師や家族の適切なサポートを受けながら治療を受けることで、患者さんが就労 を実現し社会に貢献することも不可能ではありません。

今日の治療のあり方は、単に症状を改善するだけではなく、患者さんの「社会復帰」 をめざす志向を強めています。社会復帰とは、病気や事故などのために、社会活動を制限されてしまった人が、再び社会で活躍できるようになることであり、その具体的な中身は以下のようなイメージでとら えることができるでしょう。

①自立した生活を営むこと

自分の病状を把握しコントロールしながら、自分の力で生活を営んでいく。

②他者とのつながりをもったり、地域のコミュニティなどに参加すること。

たとえば、友人と交流したり遊んだりする。あるいは地域におけるサークル活動や習い事に参加する。

③就学・就労すること

健常な人たちと同じように学校に通って勉強したり、会社で働いて給与を得る。

このように、普通の社会生活を営みながら人生を楽しめるようになることが、統合失調症治療の最終的な目標となっています。では、統合失調症の患者さん達がこうした社会復 帰を実現するためにはどのような治療法が最も望ましいのでしょうか。

薬物療法

統合失調症の最も基本的な治療方法は、薬物療法

風邪を治すのに風邪薬が使われたり、あるいは胃痛に対して胃薬が処方されたりするように、心の病・精神の病気に対しても治療薬が存在します。

人の精神に作用する薬物は向精神薬と総称されており、そのうちの1つのカテゴリーである「抗精神病薬」を用いた薬物療法が、統合失調症の最も基本的な治療法となっています。この薬物療法の具体的な治療効果は、以下のような形に整理することができるでしょう。

①陽性症状の改善:幻覚や妄想などがおさえられる。

②鎮静作用:不安や焦燥、興奮がやわらげられ、神経の鎮静化が促される。

③陰性症状の改善:意欲の減退、活動性の低下、感情の鈍麻などが改善される。

また、統合失調症の患者さんには、陽性症状や陰性症状のような統合失調症本来の症状以外にも不安や不眠など様々な精神症状が現れるため、それらをやわらげることを目的とした補助的な薬が使われることもあります。

主な補助治療薬としては、以下のようなものがあります。

①抗不安薬

強い不安感や緊張感、焦燥感を緩和する効果があります。主としてベンゾジアゼピン系の薬剤が用いられます。

②睡眠薬(睡眠導入薬)

寝つきが悪い、途中で何度も起きてしまう、早朝に目が覚めてしまうなど、様々な不眠の症状を改善するために使われます。

今日では複数の薬を一度に使用する、多剤投与(処方)が問題となっています。複数の薬を一度に使用すると、どの薬が効果あるのか分からなくなってしまうことがあります。さらに薬の種類が多いだけ、副作用も出やすくなってしまいます。補助的な薬の使用は、 本当に必要か慎重に検討し、最小限にとどめるべきです。私たちの病院では、使用する薬 の種類を極力シンプルにする、「単剤処方」を心がけています。

もし、別の病院や診療所から私たちの病院へ移ってこられた患者さんの処方が多剤投与 であった場合、患者さんや家族と相談してできるだけ「単剤処方」に変更しています。

「こころのケア」~ペプロウ理論~

患者さんにとって、通院もしくは入院による治療を受ける過程で最も接する機会の多い相手は看護師になります。そのため、看護師の患者さんに対する姿勢やアプローチの仕方 は、患者さんの心理状態に少なからぬ影響を与えることになります。とりわけ精神疾患を 患っている患者さんの場合には、心理面の安定が強く求められるため、看護のあり方が治 療の効果に大きな影響を及ぼしかねません。

こうした精神医療における看護の特別な重要性に鑑みて、戸田病院では、患者さんの心 を最大限にケアすることをめざすペプロウ理論を看護の現場に導入し、実践しているところです。

「ご家族の役割」

統合失調症の治療は長期間に及ぶことが珍しくありません。そのために、患者さんには 根気よく治療を続けていく姿勢が求められることになります。

また、統合失調症の症状は再発しやすく、とりわけ発病初期の年間ほどは再発のリスクが高いといわれています。万が一、再発を繰り返すような事態に陥ると、回復が難しくなっていきます。

したがって、たとえ幻覚や妄想などの症状が治まり、周りには治ったと思われるような場合でも、再発防止を意識した対応を怠らないことが必要になります。

このように統合失調症の患者さんが治療を持続し、再発防止に配慮した生活を送るためには、本人の努力はもちろんですが、家族による十分なケアやサポートも求められることになります。

他方で、家族は患者さんとの関わりの中で、「どのように接すればよいのか」「ついつい 怒ってしまい自責の念にかられる」など様々な悩みや不安に直面することになります。そうした問題をどのように解決していくのかも大きな課題となります。 統合失調症の治療を続けていくうえで家族には、どのような役割を果たすことが求められるのか、また家族が抱える悩みや不安を解消するためにはどのような手段があるのかなど、家族が統合失調症患者の社会復帰を後押しする「支援体制」を築いていくことが重要です。

Ⅰ.統合失調症 第2回 統合失調症とは②

目次

統合失調症の経過

統合失調症の症状の現れ方、治まり方には個人差がありますが、一般的な傾向としては、 以下のような経過をたどることになります。

①前駆期

統合失調症の前兆となる症状が現れる時期です。具体的には不安、緊張、不眠、集中力 困難、食欲低下、抑うつ気分などの症状が見られます。再発の前にも同様の症状が現れるので、この時期に早期発見、早期介入を行うことによって再発を予防することが重要になります。

②急性期

幻覚、妄想、思考の混乱、興奮など統合失調症の症状が強く現れます。本人には病識(自分が病気であるとの認識)がないのが特徴です。

③回復期

治療により精神状態が治まっている状態です。急性期に疲れた心身を回復させるための 充電期間といえるでしょう。

④慢性期

急性期の症状が治まった後も、陰性症状や作業能力障害は持続します。この慢性期には 社会生活への適応をめざしリハビリテーションを行うことになります。

「3つの分類」

症状や経過などを基準にして、統合失調症は「妄想型」「破瓜型」「緊張型」という3つのタイプに分類されてきました。

「妄想型」は、妄想や幻覚が中心となり、発病年齢は、やや高い傾向があります。

「破瓜型」は、思春期から青年期にかけ発病し、陰性症状が強まる点に特徴が見られます。

「緊張型」は、若いときに急激に現れ興奮状態や昏迷状態を示します。治療を受けることで 早期の回復が期待できると考えられています。

「統合失調症の原因」

なぜ、統合失調症になるのか ―  その発症のメカニズムについては様々な 説が唱えられていますが、現在最も支持されているのは「ドーパミン仮説」です。

脳が活動するためには、神経伝達物質と呼ばれる化学物質が神経から神経へと情報を伝えていくことが必要となります。その神経伝達物質の1つに、快楽や興奮状態を生み出す働きをして いるドーパミンがあります。このドー パミンの分泌が過剰になることなどによって脳の機能障害が生じ、幻覚や妄想などの統合失調症の症状が現れると考えられています。

「発症要因」

前述したような脳内の異常が引き起こされるのはなぜなのかという統合失調症が発症す る要因についても、研究者の間では議論と研究が行われてきました。主な発症要因としては、以下のように①遺伝、②環境、③ストレスなどがあげられています。

①遺伝

一親等血縁者に統合失調症の人がいる場合、いない場合に比べて統合失調症になる危険率が5~10倍以上になるとの報告があります。また、一卵性双生児の場合、一方が統合失調症となるケースでは、他方の発症率は50%、二卵性双生児の場合は、17%というデータもあります。もっとも、一卵性双生児の場合でも、50%は統合失調症にならないということは、「統合失調症になるかならないかは、遺伝的な要因だけでは決まらない」という事を意味します。

②環境

体質といった生物学的な環境や生まれ育った状況・背景などの社会的な環境も影響をも たらします。たとえば母親が妊娠していたときにウイルスに感染したり栄養不足だった人 や、冬に生まれた人は発症率がわずかに高いともいわれています。

③ストレス

統合失調症の患者さんの中には、過剰なストレスが長い間続いたり、強いストレスがかかったことが、発症のきっかけとなった人が少なくありません。

Ⅰ.統合失調症 第1回 統合失調症とは①

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統合失調症は、脳機能のバランスが崩れた結果、現実を正確に把握することや感情・意欲のコントロール、適切な人間関係を保つことが困難になる病気です。

統合失調症の主要な症状としては、一般に①陽性症状、②陰性症状、③作業能力の障害の 3つがあげられます。

①陽性症状

陽性症状とは、幻覚、妄想、解体した会話(支離滅裂な内容、頻繁に脱線する会話など)や興奮状態が現れることです。このうち、幻覚と妄想は統合失調症の特に代表的な症状であることから詳しく説明します。

幻覚とは現実にはないものを認識することです。とりわけ多いのは実際には音が 存在しないのに音が聞こえる「幻聴」です。何かを命令する声や、あるいは複数の人が会 話していて自分の悪口や批判を言っているのが聞こえてくるのが典型例です。「おかしな服を着ている」「今トイレに入っている」などのようにまるで監視されているかのような 声が知覚されるケースもあります。

一方、妄想とは、あり得ないことを根拠もなく信じ込んでしまっている状態です。妄想のタイプは様々ですが、その内容に応じて❶被害妄想、❷関係妄想、❸誇大妄想、❹微小妄想、❺身体妄想、❻妄想性人物誤認に分けることが可能です。

❶被害妄想とは、自分やあるいは身近な人に対する悪意が妄想の中身となっている場合です(例「命が狙われている」)。

❷関係妄想とは、自分に無関係な周囲の人の言動やテレビ等で見聞きした出来事が自分 に対して関係のあるものと強く思い込むことです(例「テレビでアイドルが自分をばかにして笑っている」)。

❸誇大妄想は過大な自己評価が妄想の中身となっている場合です(例「自分は王家の末裔だ」)。

❹微小妄想は誇大妄想とは逆に、過小な自己評価が妄想の中身となっている場合です(例「自分はごみのような人間だ」)。

❺身体妄想は、自分の身体が他の人に比べてどこかおかしい、劣っているなどと思い込む妄想です。

❻妄想性人物誤認は、近親者などよく知っている人が瓜二つの別の人物に入れ替わったと信じるなど人物に関する誤認を内容とする妄想です。

②陰性症状

陽性症状が今までにはなかった症状が起こるのに対して、陰性症状では逆にこれまではあったものがなくなる、もしくは乏しくなることになります。

❶感情の平板化

喜怒哀楽など自身の感情表現が乏しくなったり、物事に適切な感情がわきにくくなります。また、他者の感情表現に共感することも少なくなり、相手の気持ちに気づかなかったり誤解したりすることが多くなります。

❷意欲の減退

物事を行ううえで必要となる意欲がなくなってしまいます。たとえば、仕事や勉強をしようとする前向きな気持ちがなくなったり、入浴や着替えなど日常的な行動にも関心をもてなくなります。

❸思考内容の貧困

会話の量や中身が乏しくなったり、返答が遅れたり、話にまとまりがなくなったり、無口になったりします。

③作業能力の障害は、具体的には「記憶力が減退する」「融通性が低下する」「了解が悪くなる」などといった形で現れます。認知機能障害を示します。①陽性症状と②陰性症状は薬によって治療することが可能であるのに対して、③作業能力の障害については、現状では薬だけで治すことは困難と見られています。