Ⅲ.認知症 第4回 在宅介護をする家族について

認知症の方の在宅介護では、家族だけで抱え込んでしまうケースが多くあります。

在宅介護を行う場合、相談できる場所を作ることが大切です。

例えば、担当のケアマネージャーや地域包括支援センター、かかりつけ医などです。

介護を続けていくと、その時々で問題となる言動や分からないことも出てきます。

誰かに相談しながら介護をすることで、

問題を家族だけで抱え込まず、周りの人と協力でき、

より良い生活を維持していくことに繋がります。

認知症が進行していくと、認知症の方の言動で困ることもあります。

症状を理解し、正しい接し方を知っておくことで、

何かあっても慌てることは少なくなるでしょう。

また、介護者の方が一息つき、リフレッシュする時間はとても大事な時間です。

「自分は大丈夫」と思っていても、思っている以上にストレスや疲労は溜まっていきます。

介護者の方に何かあれば、介護自体に影響が出てしまいますので、

無理をせず周りの人と協力し合える環境を心がけましょう。

●お問い合わせ

戸田病院 認知症疾患医療センター

℡:048-433-0090

Mail:ninchishou-center@koujinkai.or.jp

Ⅲ.認知症 第3回 外で困っている方を見つけた場合

認知症の方に接する際には、

1 まずは見守る

2 余裕をもって対応する

3 声をかけるときは1人で

4 後ろから声をかけない

5 相手に目線を合わせてやさしい口調で

6 おだやかに、はっきりした滑舌で

7 相手の言葉に耳を傾けてゆっくり対応する

以上の7つのポイントを押さえましょう(認知症サポーター養成講座標準教材より)。

困っていそうな高齢者の方が居たら、まずは様子を見てみます。

様子を見ることで、こちらが落ち着く時間にもなり、余裕を持って接することができます。

焦っていたり、キョロキョロしていたり、不安そうであったり、

その方の様子に違和感がありましたら、声をかけてみて下さい。

声をかける時は1人で、正面から近づきながら声をかけます。

はっきりとした言葉で「どうしました?」「何かお手伝いしましょうか?」と、優しく声を掛けましょう。

相手が話してくれるようであれば、最後まで話をしっかり聞いてあげて下さい。

認知症の方の場合、人とのコミュニケーションに過敏になっていることもあります。

無理に気になることを聞き出そうとせずに、ご本人の様子を見て下さい。

何か連絡先が分かるような物を、ご家族が持たせているかもしれません。

もし何も分からないのであれば、市区町村の高齢書支援課や、地域包括支援センターなどを頼って下さい。

●お問い合わせ

戸田病院 認知症疾患医療センター

℡:048-433-0090

Mail:ninchishou-center@koujinkai.or.jp

Ⅲ.認知症 第2回 認知症の方との接し方

認知症の方と接する際には、認知症についての正しい理解が必要です。


記憶があやふや

苦手なことが増えた

同じことを何度も聞いてくる

こうした症状が「なぜその様な状態なのか」と分かれば、

何かあったときにスムーズに接することができます。

接する際に気を付けて欲しいことは

・驚かせない ・急がせない ・自尊心を傷つけない という点です。

お話しをする際は

本人の視界に入ってから話すようにする

次々に質問をしない

同じことを聞いたなど、否定的な言動をしない

などの点に気を付けてみて下さい。

ご本人は理解に手間取ってしまったり、焦ってしまいます。

また、認知症の方は話の内容を忘れてしまっても、

その時の感情やマイナスイメージは残ってしまうそうです。

「どうせ忘れてしまうから」と思わず、

正しく理解し、良い接し方を実践できれば、接する方の負担も減るはずです。

●お問い合わせ

戸田病院 認知症疾患医療センター

℡:048-433-0090

Mail:ninchishou-center@koujinkai.or.jp

Ⅲ.認知症 第1回 認知症疾患医療センターへ相談できること

自分自身やご家族、友人、近所の人などの様子が気になる

という相談を受けることがあります。

たとえば、

・同じ話を何度もしている

・約束したことを忘れてしまう

・物をどこに置いたか分からなくなる

・日時や季節の感覚がおかしい

・着るものや身だしなみに無頓着になった

・家事ができなくなった

・趣味に興味がなくなった

・怒りっぽい

・無いものが見えると言う

「もしかしたら認知症かも」と思った時に、

どこに相談すれば良いのか迷うことがあるかもしれません。

認知症疾患医療センターでは、

こうした様々な「もの忘れ」、「認知症かも」といったような

困ったことについて相談することができます。

本人や家族だけで抱え込まず、気になったら一度連絡をしてみて下さい。

「いつから」「どういう様子」など、お話をお聞かせいただき、

認知症疾患医療センター職員との面談、外来への受診や相談機関などをご案内いたします。

〇連絡先

戸田病院 認知症疾患医療センター

Tel:048-433-0090 (直通)   Fax:048-433-0091   月~土曜日8:45~17:00まで

ものわすれ外来は、月~土の8:45~11:00、水曜日は午後も診療しています。

面談やものわすれ外来の受診につきましては、

事前に認知症疾患医療センターまでお電話をしていただけると、

当日スムーズにお話ができます。

Ⅱ.コロナ後遺症 第4回 コロナ後遺症に対しての戸田病院入院患者様への食事療法について(後篇)

楽しみだった食事の時間が苦痛になることは、後遺症の回復にとって、大きな課題です。今回は、退院後の生活でも役に立つ工夫について、ご紹介します。

<具体的な調理・提供について>

コロナ後遺症による味覚障害は、「嗅覚」の異常に、大きく関連していると考えられています。
「風味」の回復を促す観点では、以下のような点に気を配ったお食事提供が有効と考えます。

(1)「うま味」(だし成分)の活用
「うま味」は、塩味や甘味に比べて、感受性が強いため比較的認識しやすいと言われています。
減塩献立などにも積極的に利用されている「うま味」は、肉・魚・しいたけや昆布などから抽出される「だし」から感じる美味しさのことです。英国で発表されているコロナ対策料理レシピでも、「UMAMI」として、その活用を推奨しています。

(2)香辛料・ハーブ等による刺激
胡椒・七味唐辛子・わさび等の香辛料の適度な使用は、味覚障害の治療食でも有効であると言われています。クローブなど、はっきりとした香りのハーブは、嗅覚トレーニングに使用されています。

(3)提供温度の注意
提供される温度も、味の感じ方に大きな影響を与えます。同じ食材でも、温かいときと冷たいときでは味の感じ方が全く違うと思った経験があると思います。コロナ後遺症による味覚障害では、温かい汁が不味くて飲めないといった声も多く挙げられているようです。

コロナ後遺症による味覚障害に悩む患者様の対応については、管理栄養士を中心に栄養士と調理師が一体になって、チームで取り組みます。
個別の聞き取りをもとに、食材や調味料、調理方法を個別に検討して、回復のお役にたつお食事を提供していきたいと考えます。

医療法人高仁会 戸田病院

Ⅱ.コロナ後遺症 第3回 コロナ後遺症に対しての戸田病院入院患者様への食事療法について(前篇)

楽しみだった食事の時間が苦痛になることは、後遺症の回復にとって、大きな課題です。この課題を少しでも緩和できるように、コロナ後遺症による味覚障害を訴える方のお食事に、次のような提案をしたいと考えます。

コロナ後遺症による味覚障害の方への献立に対する考え方

以下の4つの項目について、それぞれの症状に併せた対応を考えていきます。

(1)形態 (2)量 (3)調味料 (4)食材

(1)形態
味覚が鈍っている方にとって、固形物をそのまま召し上がることは苦痛である場合があります。
食材を1㎝角の刻んだ「刻み食」の形態で咀嚼の苦痛を和らげ、とろみをつけた調味料などをコーティングするなどの工夫で、味を感じやすくするようにできると考えています。

(2)量
味覚がない人にとっては、一度に多くの量を食べるのは、つらいものです。
一度の食事で提供する品数や量を調整して、少量でも高カロリーを摂取できるゼリーをつけたり、おやつの時間などに、デザートを提供するなどで必要なカロリーを接収することができます。

(3)調味料
コロナ後遺症の特徴として、味を感じないというだけでなく、今まで美味しかったものが違った味に感じるようになり、食べられなくなってしまうというような事例が多く報告されています。
カラダの変化によって苦手になった調味料の使用を避け、代替調味料での美味しさを感じられるように、個人ごとに聞き取りを実施して、その時の状態に合う調味料を選んで工夫していきます。

(4)食材
苦手な食材についても、できる限り、その時の患者様の感じ方にあわせて、代替食材を使用します。
例えば、ベーコンなどの燻製臭が苦手になっている状態の方には、同様のたんぱく源として挽き肉や卵などを使用して、栄養のバランスを整えた献立を提供していきます。
また、味覚の回復に効果があると言われる「亜鉛」や「鉄」などを多く含む食材(ツナや卵など)を、適切に調理して、積極的に使用していくことも有効です。

コロナ後遺症による味覚・嗅覚の変化は、個人により様々です。上記の4つの切り口から、患者様の状態に合わせた対応を考えていきます。次回は、退院後の生活でも役に立てるような提案を紹介します。

医療法人高仁会 戸田病院

Ⅱ.コロナ後遺症 第2回 コロナ後遺症による味覚障害について(後篇)

新型コロナウイルスの後遺症の原因は明確になっていない中、様々な症状に苦しんでいる方々がいます。
PCR検査で陽性が判明し、嗅覚と味覚に違和感が発生しその後回復した、28歳女性の実体験から、食材や調理法にどのような変化があったのかを紹介します。

陽性判明からの味覚・嗅覚の異常

<味覚と嗅覚の感じ方の変化>
①陽性判明の日から5日・・・無味無臭。
②5日~10日・・・味覚・嗅覚少し戻る。少し味を感じる。バナナが美味しいと感じる。
③10日~3週間・・・食べられるものが増えてきた。
④3週間~4週間・・・美味しいと感じるものが増えてきた。
⑤4週間~6週間・・・味覚は8割ほど戻った感覚だが、嗅覚はまだ6割ぐらい。

<食材別の感じ方>
・ふわふわしている食べ物 (パン、カステラ、ドーナツなど)
  スポンジを噛んでいるような感じ。モサモサする。
・硬い食べ物 (おせんべいなど)
  突起物を噛んでいるような感じ。せんべいは苦い。
・弾力のある食べ物 (肉、ちくわ、かまぼこなど)
  グミを噛んでいるような感じ。飲み込めない。

<美味しく感じられなくなった食べ物>
味噌や醤油で味付けされた料理、燻製系の食べ物、ハンバーグ、シュウマイ、チョコレート、コーヒー、ドレッシング類

<辛いもの、酸味の強いもの>
舌が敏感になり、食べられない

<比較的、苦労なく食べられたもの>
◎めんつゆなどの「だし」、高粘度の調味料「ケチャップやソース」、酸味の強くない「ポン酢」
◎バナナ
◎苦味が少なく、甘さが強いもの:「かりんとう」など

  <<本人の声>>
「陽性と診断され、無味無臭と自覚したときはショックが大きかったです。食べ物と目で認識しているものの、匂いと味がしないとただの固形物を口にいれているかのようで、なかなか飲み込めませんでした。毎回食べるのに倍以上の時間を要し、大好きな食事の時間が初めて苦痛と感じました。
5日を過ぎた頃から少しずつ味を感じはじめ、かすかではありましたが“バナナが美味しい”と感じられるようになってきました。3週間を超えてくると、美味しいと感じられる物も増えました。嗅覚の方が、味覚よりも戻りが遅く、鼻先まで近づけなければ何の匂いかわからないことがあります。」

味覚障害の方へのお食事について

コロナ後遺症による味覚障害については、わからないことも多く、また個人による感じ方の差も様々といわれており、その方の感じ方にあった対応が必要ですが、いくつかの共通点もあるようです。
具体的なお食事提供の提案について、次回のコラムでお伝えします。

医療法人高仁会 戸田病院

Ⅱ.コロナ後遺症 第1回 コロナ後遺症による味覚障害について(前篇)

新型コロナウイルスの後遺症の原因は明確になっていない中、様々な症状に苦しんでいる方々がいます。

その中の一つに「味覚障害」が挙げられます。コロナ後の精神的な落ち込みに苦しむ人にとって、感染前に美味しく召し上がっていた食事が楽しめないことは、さらに大きな苦痛であることは想像に難しくありません。

1.味覚障害の原因として考えられること

舌の味覚をつかさどる組織(味蕾)や、神経へのウイルスによる障害に加えて、「嗅覚障害」に伴い食品のニオイがわからないことによる、いわゆる「風味」の障害が、その原因と想定されています。

2.味覚障害の感じ方について

「匂いを感じない(弱い)」は概ね共通する症状として挙げられますが、様々な具体例が挙げられています。例えば、

  • 米も魚も味がしないため、咀嚼(そしゃく)が苦痛。
  • あたたかい汁が汚水の味に感じる
  • チョコレートが腐った魚の味がする

など、個人により感じ方の変化は様々です。
よって、その対応にも個別性が求められます。

3.具体例 <発症してから回復までの味覚と嗅覚の感じ方>28歳女性の場合

PCR検査で陽性が判明し、嗅覚と味覚に違和感が発生し、その後回復した例を紹介します。
発症から6週間後の聞き取り内容です。

<味覚と嗅覚の感じ方の変化>
①陽性判明の日から5日・・・無味無臭。
②5日~10日・・・味覚・嗅覚少し戻る。少し味を感じる。バナナが美味しいと感じる。
③10日~3週間・・・食べられるものが増えてきた。
④3週間~4週間・・・美味しいと感じるものが増えてきた。
⑤4週間~6週間・・・味覚は8割ほど戻った感覚だが、嗅覚はまだ6割ぐらい。

味覚・嗅覚の違和感の回復には、時間がかかっています。
次回は、様々な食材や味付けが、具体的にどのように感じたのか、紹介します。

医療法人高仁会 戸田病院

Ⅰ.統合失調症 第3回 統合失調症の治療

目次

統合失調症は、数ある精神疾患のなかでもとりわけ深刻な病と思われています。幻覚、妄想などの統合失調症ならではの特異な症状は、一度罹患すれば一生治らないと言われていたほどです。

しかし、近年の医療技術の進展にともない、優れた治療薬が開発された結果、今では病気と上手に付き合いながら生活している人も少なくありません。患者さんを悩ませてきた 症状の多くを薬によって緩和することが可能となり、統合失調症を患ったとしても絶望する必要はない時代となったのです。

症状が改善されると、次にめざすのが社会復帰です。病気によって諦めなければならな かった就学や就労など、自分の生活を取り戻すという目標は、患者さんや家族のモチベーションにもなります。しかし、この「症状の改善」と「社会復帰」の間には、依然として大きなハードルが立ちはだかっています。

治療がうまくいき、いざ就学・就労を試みるものの、失敗を繰り返して自信を喪失してしまう。病気であることを知らない周囲の人たちとのコミュニケーションがうまくいかず に、トラブルメーカー扱いされてしまう……。統合失調症を患っていなくても、社会に出 ていくということは困難がついてまわるものですが、病気療養で社会とのつながりにブランクのある人であればなおのこと、うまく立ちまわることが難しいことは容易に想像がつくことでしょう。

では、統合失調症の患者さんの社会復帰は不可能なのでしょうか。病を抱えながらも、学校で勉強したり、仕事を行うことを望むのは無理なことなのでしょうか。

決してそのようなことはありません。統合失調症を患っているからといって、社会生活を諦める必要は全くないのです。

統合失調症の治療法は一昔前に比べて格段の進歩を遂げており、その選択肢も広がって います。医師や家族の適切なサポートを受けながら治療を受けることで、患者さんが就労 を実現し社会に貢献することも不可能ではありません。

今日の治療のあり方は、単に症状を改善するだけではなく、患者さんの「社会復帰」 をめざす志向を強めています。社会復帰とは、病気や事故などのために、社会活動を制限されてしまった人が、再び社会で活躍できるようになることであり、その具体的な中身は以下のようなイメージでとら えることができるでしょう。

①自立した生活を営むこと

自分の病状を把握しコントロールしながら、自分の力で生活を営んでいく。

②他者とのつながりをもったり、地域のコミュニティなどに参加すること。

たとえば、友人と交流したり遊んだりする。あるいは地域におけるサークル活動や習い事に参加する。

③就学・就労すること

健常な人たちと同じように学校に通って勉強したり、会社で働いて給与を得る。

このように、普通の社会生活を営みながら人生を楽しめるようになることが、統合失調症治療の最終的な目標となっています。では、統合失調症の患者さん達がこうした社会復 帰を実現するためにはどのような治療法が最も望ましいのでしょうか。

薬物療法

統合失調症の最も基本的な治療方法は、薬物療法

風邪を治すのに風邪薬が使われたり、あるいは胃痛に対して胃薬が処方されたりするように、心の病・精神の病気に対しても治療薬が存在します。

人の精神に作用する薬物は向精神薬と総称されており、そのうちの1つのカテゴリーである「抗精神病薬」を用いた薬物療法が、統合失調症の最も基本的な治療法となっています。この薬物療法の具体的な治療効果は、以下のような形に整理することができるでしょう。

①陽性症状の改善:幻覚や妄想などがおさえられる。

②鎮静作用:不安や焦燥、興奮がやわらげられ、神経の鎮静化が促される。

③陰性症状の改善:意欲の減退、活動性の低下、感情の鈍麻などが改善される。

また、統合失調症の患者さんには、陽性症状や陰性症状のような統合失調症本来の症状以外にも不安や不眠など様々な精神症状が現れるため、それらをやわらげることを目的とした補助的な薬が使われることもあります。

主な補助治療薬としては、以下のようなものがあります。

①抗不安薬

強い不安感や緊張感、焦燥感を緩和する効果があります。主としてベンゾジアゼピン系の薬剤が用いられます。

②睡眠薬(睡眠導入薬)

寝つきが悪い、途中で何度も起きてしまう、早朝に目が覚めてしまうなど、様々な不眠の症状を改善するために使われます。

今日では複数の薬を一度に使用する、多剤投与(処方)が問題となっています。複数の薬を一度に使用すると、どの薬が効果あるのか分からなくなってしまうことがあります。さらに薬の種類が多いだけ、副作用も出やすくなってしまいます。補助的な薬の使用は、 本当に必要か慎重に検討し、最小限にとどめるべきです。私たちの病院では、使用する薬 の種類を極力シンプルにする、「単剤処方」を心がけています。

もし、別の病院や診療所から私たちの病院へ移ってこられた患者さんの処方が多剤投与 であった場合、患者さんや家族と相談してできるだけ「単剤処方」に変更しています。

「こころのケア」~ペプロウ理論~

患者さんにとって、通院もしくは入院による治療を受ける過程で最も接する機会の多い相手は看護師になります。そのため、看護師の患者さんに対する姿勢やアプローチの仕方 は、患者さんの心理状態に少なからぬ影響を与えることになります。とりわけ精神疾患を 患っている患者さんの場合には、心理面の安定が強く求められるため、看護のあり方が治 療の効果に大きな影響を及ぼしかねません。

こうした精神医療における看護の特別な重要性に鑑みて、戸田病院では、患者さんの心 を最大限にケアすることをめざすペプロウ理論を看護の現場に導入し、実践しているところです。

「ご家族の役割」

統合失調症の治療は長期間に及ぶことが珍しくありません。そのために、患者さんには 根気よく治療を続けていく姿勢が求められることになります。

また、統合失調症の症状は再発しやすく、とりわけ発病初期の年間ほどは再発のリスクが高いといわれています。万が一、再発を繰り返すような事態に陥ると、回復が難しくなっていきます。

したがって、たとえ幻覚や妄想などの症状が治まり、周りには治ったと思われるような場合でも、再発防止を意識した対応を怠らないことが必要になります。

このように統合失調症の患者さんが治療を持続し、再発防止に配慮した生活を送るためには、本人の努力はもちろんですが、家族による十分なケアやサポートも求められることになります。

他方で、家族は患者さんとの関わりの中で、「どのように接すればよいのか」「ついつい 怒ってしまい自責の念にかられる」など様々な悩みや不安に直面することになります。そうした問題をどのように解決していくのかも大きな課題となります。 統合失調症の治療を続けていくうえで家族には、どのような役割を果たすことが求められるのか、また家族が抱える悩みや不安を解消するためにはどのような手段があるのかなど、家族が統合失調症患者の社会復帰を後押しする「支援体制」を築いていくことが重要です。

Ⅰ.統合失調症 第2回 統合失調症とは②

目次

統合失調症の経過

統合失調症の症状の現れ方、治まり方には個人差がありますが、一般的な傾向としては、 以下のような経過をたどることになります。

①前駆期

統合失調症の前兆となる症状が現れる時期です。具体的には不安、緊張、不眠、集中力 困難、食欲低下、抑うつ気分などの症状が見られます。再発の前にも同様の症状が現れるので、この時期に早期発見、早期介入を行うことによって再発を予防することが重要になります。

②急性期

幻覚、妄想、思考の混乱、興奮など統合失調症の症状が強く現れます。本人には病識(自分が病気であるとの認識)がないのが特徴です。

③回復期

治療により精神状態が治まっている状態です。急性期に疲れた心身を回復させるための 充電期間といえるでしょう。

④慢性期

急性期の症状が治まった後も、陰性症状や作業能力障害は持続します。この慢性期には 社会生活への適応をめざしリハビリテーションを行うことになります。

「3つの分類」

症状や経過などを基準にして、統合失調症は「妄想型」「破瓜型」「緊張型」という3つのタイプに分類されてきました。

「妄想型」は、妄想や幻覚が中心となり、発病年齢は、やや高い傾向があります。

「破瓜型」は、思春期から青年期にかけ発病し、陰性症状が強まる点に特徴が見られます。

「緊張型」は、若いときに急激に現れ興奮状態や昏迷状態を示します。治療を受けることで 早期の回復が期待できると考えられています。

「統合失調症の原因」

なぜ、統合失調症になるのか ―  その発症のメカニズムについては様々な 説が唱えられていますが、現在最も支持されているのは「ドーパミン仮説」です。

脳が活動するためには、神経伝達物質と呼ばれる化学物質が神経から神経へと情報を伝えていくことが必要となります。その神経伝達物質の1つに、快楽や興奮状態を生み出す働きをして いるドーパミンがあります。このドー パミンの分泌が過剰になることなどによって脳の機能障害が生じ、幻覚や妄想などの統合失調症の症状が現れると考えられています。

「発症要因」

前述したような脳内の異常が引き起こされるのはなぜなのかという統合失調症が発症す る要因についても、研究者の間では議論と研究が行われてきました。主な発症要因としては、以下のように①遺伝、②環境、③ストレスなどがあげられています。

①遺伝

一親等血縁者に統合失調症の人がいる場合、いない場合に比べて統合失調症になる危険率が5~10倍以上になるとの報告があります。また、一卵性双生児の場合、一方が統合失調症となるケースでは、他方の発症率は50%、二卵性双生児の場合は、17%というデータもあります。もっとも、一卵性双生児の場合でも、50%は統合失調症にならないということは、「統合失調症になるかならないかは、遺伝的な要因だけでは決まらない」という事を意味します。

②環境

体質といった生物学的な環境や生まれ育った状況・背景などの社会的な環境も影響をも たらします。たとえば母親が妊娠していたときにウイルスに感染したり栄養不足だった人 や、冬に生まれた人は発症率がわずかに高いともいわれています。

③ストレス

統合失調症の患者さんの中には、過剰なストレスが長い間続いたり、強いストレスがかかったことが、発症のきっかけとなった人が少なくありません。